【特集】ほっとかへん地域づくりへ ~ほっとかへんネットの取り組みからみえること~

集いの場からニーズキャッチ(ほっとかへんネット灘)
子どもの居場所「ほっと屋」と施設紹介トレーディングカード
(ほっとかへんネット芦屋)
夏休み期間中の子ども食堂と学習支援(ほっとかへんネット南あわじ)
ほっとかへんロゴマーク「ほっとかナイト(騎士)」

 「ほっとかへんネット」をご存知ですか?皆さんの身近な地域で、困りごとを“ほっとかへん”ために、社会福祉法人が連携してつくっているネットワークです。兵庫県独自の取り組みで、各市区町社協と区域内の社会福祉法人が中心となって構成し、地域における公益的な取り組みを進めています。
 特集では、全国的に注目されている「ほっとかへんネット」の取り組みと、そこから見えることをお伝えします。

あなたの身近な地域のほっとかへんネット ~県内全ての市区町に設置~

 ほっとかへんネットは、市区町域で社会福祉法人が連携してつくるネットワークで、平成26年度から順次立ち上げられてきました。令和7年4月に49か所全ての市区町で設立され、県内で約980もの社会福祉施設、社協が参画しています。
 ほっとかへんネットの目的は大きく2つあります。ひとつは、住民の困りごとを “ ほっとかない ’’で対応することです。もうひとつは、誰もが暮らしやすい地域づくりです。社会福祉法人だけでなく、住民をはじめボランタリー団体や企業、学校など多様な主体と協働することで、暮らしやすい地域づくりを推進します。
 ほっとかへんネットの強みは、児童・高齢・障害・生活困窮といった各々の専門分野を越えたネットワークです。これにより、暮らしのニーズに総合的に取り組むことができます。
 もう一つの強みは、身近な地域での支え合いの体制づくりです。ほっとかへんネットは2つのエリアでの取り組みを基本としています。まずは、「社会福祉施設の所在エリア」での取り組みです。例えば、児童福祉施設が地域の子育て拠点や多世代交流拠点となるといった取り組みによって、園児・利用者が地域の一員として暮らす環境をつくります。その上で「市区町エリア」のほっとかへんネットが、各施設の取り組みを後方支援しつつ、施設だけでは対応しきれないニーズに対応します。
 このような取り組みの更なる充実をねらいとし、本会と県社会福祉法人経営者協議会、兵庫県では「ひょうご ほっとかナイト」認定制度を創設しました。令和7年度から始まる同制度では、地域の多様な主体との協働を積極的に進めるほっとかへんネットを認定します。

「ひょうご ほっとかナイト」認定制度の詳細はコチラへ
https://www.hyogo-wel.or.jp/public/hottokahennet.php

ほっとかへんネットの現況 ~「相談支援」「困窮支援」の取り組みが活発化~

 現在、ほっとかへんネットはコロナ禍での制約を乗り越え、本格的な活動期を迎えています。実務者同士の協議を再開し、福祉ニーズへの具体的な対応についても活発に協議がなされています。
 ほっとかへんネットの活動状況に関する調査からは、取り組みが着実に進展し、実務者間の連携が強化されていることが読み取れます。具体的な活動としては、「相談支援」と「地域づくり」の割合が増加しており、さらに「困窮者支援」については大幅な伸びがみられました(図表1参照)。

図表1 ほっとかへんネットの活動(令和6年度ひょうごの地域福祉の現況より)

 相談支援や困窮者支援の方法は多様ですが、子ども食堂やサロンなど住民が集う場に出向き、自然な交流の中で、困りごとを把握するといったアウトリーチの実践が広がりつつあります。
 次に、県内のほっとかへんネットのうち、宝塚市と南あわじ市の活動を紹介します。

事例1 ほっとかへんネット宝塚 (平成29年設立/加入法人数 29)

孤立を見過ごさない地域づくり
 ほっとかへんネット宝塚は、さまざまな課題に柔軟に対応するために地域の多様な主体との協働を進めています。具体的には、①地区別アプローチ、②地域福祉に関する共通理解づくり、③孤立への積極的な対応を通して、その基盤をつくってきました。
 1点目の地区別アプローチでは、市が設定した7圏域ごとの「地域生活支援会議」に圏内の社会福祉法人が参画しています。令和3年度には全地区で会議がスタートし、法人が種別を超えて参画しています。活発な地区では年間9回の企画会議が開かれ、地域の課題について法人を含めた幅広い主体が協議し、対応する体制が整備されています。
 次に、地域福祉に関する共通理解づくりに向けた取り組みとしては、「地域福祉研修」を実施しています。これは、福祉専門職が地域住民と協働して暮らしを支える重要性を学ぶ場で、これまで9年間継続してきました。研修会では、保育士や介護職員等が住民の地域活動を見学するプログラムを取り入れ、住民との協働の入口づくりの工夫をしています。
 3点目の孤立への積極的な対応に関しては、これまでほっとかへんネットの運営委員会で何度も話を重ね、生活困窮者支援機関の職員を招いた学習会も実施してきました。検討を重ねた結果、令和6年度から緊急支援事業を始めることになりました。また、ひきこもり支援におけるメタバースの活用も視野に入れています。
 こうした取り組みの根底には、「地域と一体となり、誰ひとり取り残さない」という強い信念があります。共に地域をより良くしようと取り組む中で、参画する法人の役職員は、制度だけでは応えきれない課題の存在に気づき始めています。その気づきが、立場や枠組みを越えて手を差し伸べ合う関係と、日常の中での支え合いの輪の広がりにつながっています。

生活困窮世帯への緊急支援として、法人ができることを協議

事例2 ほっとかへんネット南あわじ (平成26年設立/加入法人数11)

住民と協働するほっとかへんネットへ
 ほっとかへんネット南あわじの実務担当者は、これまで8年間、2か月に1回のペースで話し合いを続けてきました。当初は何をすればよいのか分からず暗中模索でしたが、勉強会からスタートした取り組みは、話し合いと実践を重ねるうちに多岐にわたる活動へと広がりました(図表2)。

図表2 ほっとかへんネット南あわじの取り組み

 活動だけでなく、参画・協働の輪も拡大しています。たとえば子ども支援として実施している「ほっとねっと食堂」では、学生ボランティアと共に学習支援を行っており、今年度からは食生活改善推進員である「いずみ会」との協働も始まります。移動問題プロジェクトでは、「地域の集いの場に行きたいけれど移動手段がないため参加できない」という声が多く寄せられる地域に出向き、住民と共にできることを探る予定です。
 取り組みの推進力は、実践から得た気づきに基づく話し合いです。「ほっとねっと食堂」は年1回の開催のため、定期開催の必要性も話題となりましたが、「ほっとかへんネットが主導するのではなく、いずれは地域の力で開催できるよう関わることが大切」といった気づきが会議で共有され、方向性が明確になりました。こうした気づきを生み出す職員同士の関係性や場の運営、そして「ほっとかへんネットが何を目指すのか」を常に問い続ける姿勢も、大きな推進力になっています。
 「普段の業務とは別に福祉職としてやりたいことが、ほっとかへんネットで実現できると分かり、やる気が湧いた」という声も職員から聞かれます。実際、情報共有アプリの開発やほっとかへんネットソングの制作など、手挙げ方式でユニークな取り組みが始まっています。設立から10年。無理なく楽しく重ねてきた経験が、実を結びつつあります。

みんなが活躍できる地域を共に創る

 ほっとかへんネットの今後の目標は、ネットワークの輪を地域に広げることです。これにより、みんなが活躍し、誰ひとり “ ほっとかない ” 地域社会の実現が近づきます。目標に向けた取り組み課題として、ここでは3点挙げます。

■利用者・住民・職員の参加と活躍

 地域生活課題の多くは、社会的孤立に起因します。このため、支え合える関係を地域の中でいかに豊かにつくるのかが重要になります。事例にあるように、法人を超えた職員間の支え合いから、利用者を含めた住民との協働と支え合い、そしてみんなが活躍できる場の創出につなげることが、これからのほっとかへんネットに求められています。

■平時のつながりを災害時に生かす

 災害時には平時に築いたつながりが試されます。南海トラフ地震をはじめ大きな災害が予想される中、ネットワークの力で困難を乗り越えるための日ごろの備えが重要です。県内では、災害派遣福祉チーム(DWAT)の組成がほっとかへんネット単位で進められていますが、これに限らず、相互支援体制を構築することが、地域内の命と暮らしを守ることにつながります。

■福祉サービス基盤の維持・再構築

 人口減少が進む中、福祉サービス基盤の維持が困難になる地域が出てくることが予測されます。公益性の高い法人として、社会福祉法人には質の高い福祉サービスを提供し続ける役割があります。ほっとかへんネットが、官民連携により将来にわたり暮らしを支える福祉基盤を守り推進することが期待されています。

「ほっとかへんネット」の更なる飛躍を!

 社会福祉法人経営者協議会 副会長 澤村 安由里

 県内で最初にほっとかへんネットが設立されてから10年が経過しました。現在では、全ての地域にほっとかへんネットが立ち上がっています。社会福祉法人が連携し、地域住民の困りごとに寄り添い、伴走するこの仕組みは、誰も取り残されない地域社会を実現するためのネットワークとして、全国でも注目されています。
 今年度はほっとかへんネットのさらなるステップアップを目指し、優良な活動を行うほっとかへんネットを「ひょうご ほっとかナイト」に認定する制度を創設します。ほっとかへんネットが今後ますます飛躍することを期待しています。

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